<研究の終着点>

 科学技術の進歩に伴い増養殖技術だけでなく病害防除技術も飛躍的に進歩してはいるものの、依然としてウイルス、細菌、寄生虫等による種々の疾病が発生し問題となっている。より厳格な疾病コントロールを行うには、斬新な防除法の開発が必要であり、それには開発の助けとなる病原体や宿主魚に関する新たな基礎的情報が必要である。
 その基礎的情報を得るため、我々は魚類培養細胞やモデル魚であるメダカ(解説)を利用して研究を行っている。増養殖対象魚に比べ、これら材料は研究を単純化し、重要な情報を迅速に得ることを可能とする。得られた情報を最終的に増養殖対象魚に還元することが、産業への貢献と考える。




<研究内容>

(1)ウイルスの感染メカニズム
 魚類ウイルスの中でも、ウイルス性神経壊死症の原因体であるベータノダウイルスは、そのゲノムサイズが小さく、株化細胞を用いた大量培養も容易であり、最も研究しやすいウイルスの一つである。さらに本ウイルスはモデル魚のメダカにも感染することから、ウイルス感染増殖に関与する宿主因子の研究にも向いている。我々のグループでは、本ウイルスを中心とした魚類ウイルス用いて、それらウイルスの感染増殖機構を体系的に明らかにすることを目標としている。(→解説図)

  (i)我々の最近の研究成果(ウイルス側)
  (ii)我々の最近の研究成果(宿主側) 乞うご期待

ウイルス感染した培養細胞

解説: ウイルス感染した培養細胞は、そのウイルス特有の細胞変性効果(細胞の変形)を示します。Bar = 100 μm
ウイルスRNAの二次構造

解説: 1本鎖ウイルスRNAは分子内で部分的に2本鎖を形成し、このような二次構造をとります。これら二次構造がウイルスRNAやタンパク質との特異的相互作用を示し、結果的に効率の良いウイルスの増殖制御が行われます。
(画像のクリックで拡大図)


(2)病害抵抗性育種
 病害防除方法の1つに、病害抵抗性育種がある。現在、選抜育種による病害抵抗成魚の作出が進行しているが、産業上重要な魚の交雑育種作業には多くの時間、スペース、労働力が必要であり、育種の効率化が望まれている。そこで、我々は組換えおよび非組換え技術を用いた、”魚の分子育種”を試みている。(→解説図)

メダカ受精卵への遺伝子導入

解説: 先が非常に細いガラス針を用いて、胚にDNA液を注入します。
外来遺伝子を発現するメダカ胚

解説: 受精卵に導入したGFP遺伝子の発現

 

(3)抗ウイルス剤の開発
 ウイルス病の対策は基本的には感染の予防である。そのため魚の増養殖施設や受精卵の消毒などが行われ、それにはポピドンヨードや活性酸素などが使用されることが多い。しかしながら、これらは環境面およびコスト面で必ずしも好ましい方法ではなく、環境に優しい低コストの防除法が世界的に望まれている。そこで我々は、天然物の中から抗ウイルス作用のある物質を探索し、その応用方法を検討している。(→解説図)